[2005.6月版]

>6/1
絵だけ描いて食って

伴幹雄の続きです。

伴君は
本州の某美大を卒業した後
いろいろやって
んで辞めて
去年の夏あたりにですね
鹿児島の喜界島にバイクでツーリングに出かけたそうなんです。
んで福岡市内に友達がいたので
そこを訪ねたところ
「注連原に仙人が住んでいるらしい」
との情報を得たそうです。

そこで
注連原に向かった伴君は
美術館のオーナーである仙人に会い
話が盛り上がるうちに
「ここで絵描きゃよか」
と言われ
美術館二階に居候することになったそうな。

むちゃくちゃな話ですが
この男と
この美術館を作った人なら
十分ありうる話だと思えました。

伴君とひとしきり話して
オーナーの仙人尾花新生さんに会えるとのことで
美術館の土蔵を出て
橋を渡り
藁葺きの家を尋ねるとですね。

まず庭の犬にひとしきり吠えられ
玄関に進むと
玄関の木戸には

NIRVANA

と書かれてありました。

ここからNIRVANAなのか・・・。

入ってみると
そこには
囲炉裏で木苺のジャムを作る
仙人の姿が。

冷蔵庫にパンが入ってるから食べなさいと言われ
パンをもらいながら
新生さんの絵を見せてもらったり。
新生さんは
麓の町の出身で
絵描きとしていろんなとこで活動したんだけれど
数十年前に
この家を買って
年に4回くらい個展をやるようにしたんだとか。
その時は
絵だけ描いて食っていくんだという気持ちで
ここに来て
制作してたそうです。
実際
今でも自給自足みたいな生活らしいのです。
私が最初にみっけた
レストランも
新生さんが作ったんだそうです。

何年か前には
スペインの美術館で個展を開いたそうで
それからスペインの他のとこから
いろんな誘いを受けたそうなんだけど
「同じことやっても意味ないけん。」
という理由だけで
もうやらないそうです。

本当に
自分の制作のことだけを考えてるわけですよ。
生活から何から全部。
めちゃくちゃ徹底してて
忠実に自分の欲求に従ってるわけですよ。
その結果
スペイン料理のレストランを
福岡のド田舎で開いて
絵を描いてる。
いろんな人が集まっていて
レストランの従業員やら
作家やら
その辺りに住んでるらしいのです。

伴君は
新生さんから
もっといろんなことを学びたいと言っていました。
今は自分の作品を完全に確立できてないから
この場所で
しっかりやりたいんだ
とも言っていました。

その後
少し離れたところに
新しいギャラリーをオープンするというので
そっちも見せてもらうことにしたのでした。
またそっちも
とんでもなくおもしろくて
いいギャラリーでした。

こんな場所があって
こんな人たちがいるんなら
やっぱり
福岡に帰らなきゃなぁと
思った田中さんでした。

その日の出来事は
あまりに膨大で
無茶苦茶で
意味不明で
NIRVANAな感じだったので
いまだに消化できてない感じです。
私も
絵だけ描いて生きていきたいと思っていて
それを体現した
ひとつの到達点みたいなのが
あの場所で
あの新生さんなんだなぁと
思ったのでした。

ともかく
伴君と新生さんには
また来るからなっ!
と言っておきましたとさ。


>6/2
行ってみるといい

さて
その注連原を訪れた翌日のことです。

前にも書いたとおり
私が注連原に行ったきっかけは
セキさんが
大名のとある店に入って
伴君のポストカードを買ったことに
始まりました。

その店に
セキさんも
伴君も
行ってみるといいと言うので
ちゃんとした住所を聞いて
行ったのでした。

大名のど真ん中にある
ラリアートというお店で
ファンキーな服がたくさん売ってある店でした。
店内をくまなく探して
伴君のポストカードと
彼が絵を描いたシャツを発見しました。
そのシャツの絵といったら
もう
すごいの。
私は
本気で打ちのめされましたよ。

んで
店内にいた
男性店員セージさんに
昨日注連原に行って伴君に会って来たんすと言うと
興奮されてですね。

んで次第に語ってくれるセージさんの話が
また熱いのですよ。

もともと
ネイティブアメリカンの服やアクセサリーを扱ってたお店だそうで
ラリアートっつーのも
投げ縄のことなんだって。
スタン・ハンセン?かどうかは
よく分かりませんが。

ネイティブアメリカンの文化っていうのは
風前の灯で
その素晴らしい服飾とかを
なんとか紹介できないかと。
同時に
現地から直接モノを仕入れることで
彼らの生活の手助けにも
ならんかと
そういう思いで始めたんだそうです。
んで
その考えは今では
ネイティブアメリカン以外の
同じような境遇の少数民族からも
モノを仕入れるようになっていてですね。
だけれど
基本的には
お客さんには
遊んでもらえるモノを提供していきたいと。
遊びで
やってくってのが
一番だと。
そういうことらしいです。

まじっすか。

セージさん調子に乗って
話は
どんどん広がってですね。


日本は貧富の差が広がってるんですよ
アパレルも
でっかい企業がガンガン攻めてきて
小さいところは
追いやられてる
そういうでかい企業に対抗するには
こうやって
自分たちの売ってるモノに
自覚とか誇りが無いと
ダメなんすよっ!!

素晴らしいですよ。
ホントに。
なんなんですか昨日から
福岡は。

またね
その心意気をさ
おらーっ!これが正しいんじゃーい!
みたいに
むやみに客に押し付けないところが
頭いいというか
素晴らしいというか
本物だなっていうか
接客大事にしてんだなっていうか。
そういうの
うざいと言えばうざいわけですよ。

だからお客さんには
遊んでもらえればオケー
ていう姿勢がですね。
最高。

また
セキさん
よくこんな店見つけちゃったなと。
こりゃ本格的に
福岡に帰らないと
ダメだな
田中さん
がんばろうねと
思ったのでした。


>6/5
清々しく雨戸を

今年も例によって
鳥が戸袋に巣を作り
ほとんど前年と変わらない日に
巣立っていきました。

前年の>6/5のコラムで
巣立つ直前の
あいつらのフィーバーっぷりは
けだし半端なく
もう雨戸で轢き殺してやろうかと
思いましたよ。
ええ、殺意すら抱きましたよ。

とのくだりがありますが
今年もまったく
同じ気持ちで
巣立ちを迎えました。

あれでしょうね
きっと
羽ばたく練習とかしてるんでしょうね。
うちの戸袋の中で。

なめるな。

ところで
その巣立ちの
前々日のことですが。
うちの大家さんから電話がありました。

家賃滞納してたっけ!?
と恐る恐る電話に出ると
「田中くん大丈夫?鳥がね田中くんの部屋の窓に巣を作ってるわよ!」
とのご指摘を受けました。
いや
十分知ってますって。
十分被害を被ってますって。

大家さんは
なぜかひどく私の身と
鳥の身を心配しててですね。
「困ったわね。あれじゃ窓開けられないわね。大丈夫?でも窓開けたらヒナつぶしちゃうかしらね。」
みたいに
なんか
大変そうです。

まぁ巣立ってくのを待つしかないですよねぇ。

ということで
大家さんと結論出したわけなんですが。

そして
無事に鳥どもが巣立ったので
大家さんも心配していることだし
戸袋の
ゴミとかいろいろを
掃除するかと。

いやー
もう出るわ出るわ。

皆さんの気分を害さないために
その状況は
詳らかに致しませんが
とりあえず
けっこう壮絶でした。
大変でした。

んで
清々しく雨戸を戸袋に押し込めて
その勢いで
荒廃していた室内清掃に
踏み入ったのでした。
まぁこちらの
惨状も
芥川龍之介の羅生門の冒頭をも彷彿とさせる
一通りでない状況でしたが
苦闘の末
治安を回復いたしました。

その夜。

けっこうな
達成感&征服感で
悦に浸っておりました田中ですが
階下から
大家さんご夫婦に呼ばれまして。

どうやらご夫婦も
鳥どもの
巣立ちを確認されたようで
私の様子をご覧にいらしたのでした。
当然私は
胸を張って
ミッションコンプリートの旨を告げました。

すると
大家さんが上がってきて
芋焼酎を私に手渡し
「お疲れ様でした。」
と。


>6/19
ベアリング玉はことごとく

昨年11月に埼玉県最北部出張の折に
相棒氏と
個展やるかオラァ
などと
盛り上がったわけですが。
それから
せっせと個展のための
制作を続け
己の生活を顧みない日々が
今年2月の個展終了まで
続いたわけです。
直後に
バルーンにヘリウムガス注入全国ツアーが始まり
なんだかんだで
夏至を臨む芒種の節気まで
日々
安穏じゃない感じで過ごして参りました。

そんな家主のせいで
我が家は
戸袋に鳥が巣を作り
押し入れの布団にはダニが涌き
拾ったビジネスチェア脚部のベアリング玉は
ことごとく部屋中に四散する始末。

さすがに
耐え切れなくなった家主は
今月に入って
部屋中のあらゆるエリアに対し
整理整頓という名の
発掘作業に
従事するに至りました。

前回コラムの通り
戸袋は
本来の機能を回復したわけです。
それから
布団も
半月以上に及ぶ
洗濯と乾燥の繰り返しによって
害虫どもをほぼ駆逐。
怖いので
布団圧縮パックを買ってきて
冬物の毛布などは
真空パックした次第です。

その後
この部屋に住み始めてからの
無駄に保存された
よく分からないアイテムを
ことごとく捨て去りまして。
ようやく
足元に注意せずとも
普通に往来できる部屋になりました。
心成しか
部屋も明るくなりました。

昨年11月からの約半年分のゴミや散らかされた物品等
居住7年分蓄積された意味不明物品を廃棄して
ひさしぶりに
きれいな部屋で生活するブームです。

飯を食ったら食器はすぐに洗います。
その日着た服はすぐに洗います。
机にむやみに物を放置しません。
窓をよく開けて換気します。
毎日掃除機をかけます。

いやぁ気持ちいいなぁ〜。

この生活
きっと1ヶ月も続かないんだろうなぁ。

さて
いよいよヘリウムガス注入全国ツアーも
残すところあと1つです。

帰ってきたら
ツアーの総括したいと思いますが
コラムにするかは
もちろん
気分次第。


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